……いや、申上げますが、実は、此処でも変なことがあったんです」
「なに、変なこと?」紳士が乗り出した。
「ええ、それが、なんしろ、重役の自動車《くるま》ですから、其処《そこ》で止まったと思うと、直ぐに私は飛出して、遮断機を上げ掛けたんです。すると、余程急ぐとみえてまだ私が遮断機を全部上げ切らないうちに、自動車《くるま》はスタートして、アッと思う間に前部の屋根でこの遮断機を叩きつけたまま、気狂いみたいに馳け出してしまったんです」と表の道路の方を顎で差しながら、「……いままで二人して、応急の修理をしていたところです」
こんどは紳士のほうが驚いたらしい。
「ふうむ、とにかく僕は、これから直ぐに箱根へ行くのだが――おッと、ここには電話があるだろう?」
「あります」
「よし。箱根の警察へ掛けてくれ給え。いま行ったクーペを直ぐにひっ捕えるように。いいかね。よしんば重役でも、社長でも、構わん」
「そんなら、とてもいい方法がありますよ。向うの箱根峠口の、有料道路《ペイ・ロード》の停車場《スタンド》へ電話して、遮断機を絶対に上げさせないんです」
「そいつア名案だ。だが、いまの調子で、遮断機をぶち破って
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