を覚えさせない程度のそれであって到るところに快いスムースなカーブがあり、ジッグザッグがあり、S字型、C字型、U字型等々さまざまの曲線が無限の変化を見せて谷に面し山頂に沿って蜿蜒《えんえん》として走り続ける。
けれどもこの愉快な有料道路《ペイ・ロード》も、夜となってはほとんど見晴らしが利かない。わけても今夜のように雲が低くのしかかったむし暑い闇夜には、遠く水平線のあたりにジワジワと湧き出したような微光を背にして夥しい禿山の起伏が黒々と果しもなく続くばかりでどこかこの世ならぬ地獄の山の影絵のよう。その影絵の山の頂を縫うようにして紳士と怪我人を乗せた自動車は、いましも有料道路《ペイ・ロード》の真ン中あたりをものに追われるように馳け続けていた。
「そういえば、なんだか見たことのある自動車《くるま》だと思いましたよ」
ハンドルを切りながら運転手が云った。
「君は堀見氏を知ってる?」隣席の紳士だ。
「いいえ、新聞の写真で見ただけです。でも、あの人の熱海の別荘は知ってます。山の手にあります」
「いま熱海にいるのかね? 堀見氏は」
「さア、そいつは存じませんが……とにかく、車庫《ギャレージ》つきの
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