自動車《くるま》は」は底本では「自転車《くるま》は」]、似ても似つかぬ箱型《セダン》だった。客席には新婚らしい若い男女が、寝呆《ねぼ》け顔をして収まっていた。
「いま、クーペに逢ったろう?」
 徐行しながら運転手が、向うの同業者へ呼びかけた。
「逢ったよ。有料道路《ペイ・ロード》の入口だ!」
 そう叫んで、笑顔を見せながら、新婚車は馳け去って行った。
 間もなく有料道路《ペイ・ロード》の十国峠口が見えだした。
 電燈の明るくともった小さな白塗のモダーンな停車場《スタンド》の前には、鉄道の踏切みたいな遮断機が、関所のように道路を断ち切っている。
 その道の真中に二人の男が立って、遮断機の前でなにやらしていたが、自動車《くるま》が前まで来て止まると、その内の一人は事務所を兼ねている出札口へ這入って行った。
 紳士は真ッ先に飛び降りて、出札口へ馳けつけた。そして蟇口《がまぐち》から料金を出しながら、切符とは別なことを切り出した。
「いま私達より一足先に、クリーム色の派手なクーペが通ったでしょう?」
「通りました」出札係が事務的に答えた。
「どんな男でした? 乗ってたのは……」
「見えませんで
前へ 次へ
全31ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング