時速十|哩《マイル》の徐行だ。
けれどもこの捜査の困難さは、半|哩《マイル》と走らない内に、人々を焦躁のどん底へ突き落した。谷沿いの徐行だから、ヘッド・ライトの光の中には、谷に面した道路の片端がいつも見えているのだが、路面は全く乾燥していて、何処から滑り落ちたか車の跡さえ判らない。せめて道端に胸壁でもあって、それが壊れていれば墜落個所の見当はつくのだが、この道は人の通らない自動車専用の道路だから、そのような胸壁や駒止めも、白塗のスマートな奴が処々《ところどころ》装飾的に組まれてあるだけで、とんと頼りにならない。
無意味な、憂鬱な捜査が暫く続いて、やがて自動車《くるま》は、胸壁のない猛烈なS字型のカーブに差しかかった。警部補は苛立《いらだ》たしげに舌打ちする。自動車はクルリとカーブを折れて、いままでの進路と逆行するように、十国峠の方を向いて走りだした。
S字カーブの尻は、大きな角張ったC字カーブになっている。Lの字を逆立ちさせたような矢標《やじるし》のついた道路標識を越して、二十|米突《メートル》も走った時だった。なにを見たのか大月氏は不意にギクッとなって慌しく腰を浮かしながら、
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