「止めて下さい!」
――巡査は直ぐにブレーキを入れた。
大月氏は扉《ドア》を開けてステップの上へ立ち上ったまま中の巡査へ云った。
「この向きで、このままバックして下さい……そう、そう……もっと、もっと……よろしい、ストップ!」
人々には、サッパリわけが判らない。
大月氏は助手席へ就くと、以前の姿勢に戻って云った。ひどく緊張した顫え声だ。
「さあ、もう一度今度は前進して下さい。最徐行で頼みます――おっと、問題のクーペは、ルーム・ランプが消えていたんだ。室内が明るくちゃアいかん。消して下さい」
自動車は灯を消して動き出した。
「いったい、どうしたんです?」
暗《やみ》の中で警部補が堪兼《たまりか》ねたように叫んだ。
「いや判りかけたんです。真相が判りかけたんです。いまに出ますよ」
「何が出て来るんです?」
「直ぐですから待って下さい」
自動車は先刻《さっき》の位置へ徐行を続ける。C字カーブの終りの角の直前だ。道がグッと左に折れ[#「左に折れ」に傍点]ているので、ヘッド・ライトの光の中には、真黒《まっくろ》な谷間の澄んだ空間があるだけだ。
前を見ていた大月氏が、突然叫んだ。
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