夏山警部補は、暫くの間、空《から》の車庫《ギャレージ》をあちこちと調べていたが、やがて「ウーム」と呟くように唸ると、屈みながら顫える手でハンケチをとり出し、そいつで包むようにしながら、床のたたきの上からキラリと光るものを拾いあげた。
血にまみれたナイフだった。それも、見たこともないような立派なナイフだった。見るからに婦人持らしい華奢な形で洒落《しゃれ》た浮彫りのある象牙の柄《え》には、見れば隅の方になにか細かな文字が彫りつらねてある。警部補は、片手の電気を近づけ、覗き込むようにして見た。
(第十七回の誕生日を祝して。1936. 2. 29)
警部補は見る見る眼を輝かしながら、そおっとナイフをハンケチに包むようにしてポケットへ仕舞い込み、そのまま急いで母屋《おもや》のほうへやって来ると、そこでまごまごしていたキヨをとらえて早速切りだした。
「時に、あんたは、歳《とし》はいくつだ? もう五十は越したな?」
「いいえ、まだ、わたし恰度でございます。恰度五十で……」
「ふむ。では、あんたの娘さんは?」
「敏《とし》やでございますか? あれは十八になりますが……」
「じゃア、エヴァンスさん
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