汐巻灯台は、とうとう決定的な異変をひき起したのだ。
 はじめ、正確に放たれていた十五秒ごとの閃光が、不意に不気味な不動光に変ったかと思うと、灰色のガスの中へなにか神秘的な光の尾を、そのままわずかに二秒ほども遠火のように漂わせて、それから急に、しかもハッキリと不吉な暗《やみ》に溶けこんでしまった。ただ、救いを求めるような霧笛だけが、ときどき低く重く、潮鳴の絶え間絶え間に聞えていた。
 さて――なんかといううちに、間もなく汐巻岬の突端にたどりついたわたし達は、光を失った三十メートルの巨大な白塔が、ガスの中からノッソリと見え始めたころ、不意に前方の闇《やみ》の中からものもいわずに歩いて来た二人の男に出会った。灯台の三田村無電技手と小使の佐野だ。
「……あ、皆様……」
 と小男の小使は、わたし達を認めると、すぐに走り出て声をかけた。
「これはこれはよく来て下さいました」
 すると三田村技手が、押しかぶせるように、
「故障で、無電がきかないんです。ちょうどこれから、試験所までお願いに上がろうと思っていたところです」
 なにか妙にそわそわしたぎこちない二人の物腰からわたしは、なみなみならぬ事件が起
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