もてざた》になり、とうとう汐巻灯台へ本省からのきびしい注意があたえられた。
ところがこの灯台は逓信省灯台局直轄の三等灯台で、れッきとした看守人が二人おり、その家族や小使を合わせて目下六人もの人々が暮しているのだ。しかもその二人の看守の中の一人というのが、すこぶるしっかり者で、謹厳そのもののような老看守だ。歳《とし》は六十に近く、名前を風間丈六といい、娘のミドリと二人暮しで、そのどことなく古武士のおもかげをさえもった謹厳な人格は、人々の崇敬の的となっていた。そしてまた一段と頼もしいことに、この老看守は人一倍はげしい科学への情熱を持っており、歳に似ず非迷信的で、本省からの調査忠告に対しても、「灯台には毎夜交替で看守がつくのだから、そのような馬鹿気たことはあるはずがない、それは多分、深いガスのながれや、またそのガスの中から光を慕って蝟集《いしゅう》するおびただしい渡り鳥の大群などによって、偶然[#「偶然」は底本では「隅然」と誤植]にも作られた明暗であり、それがまた尾をつけ鰭《ひれ》をつけて疑心暗鬼を生むのであろう」と、けんもほろろにはねつけた。
けれどもこの謹厳な老看守の声明を裏切って、
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