かり傾いてくるんだ。それに、どうもロマンスというやつは、畑違いでぼくには苦手だが、ま、……ここに一人の、純心な灯台守の娘があったとする。あるとき難波船から救い上げた一人の船員と、彼女は恋に陥る。ところが父親は非常に厳格な人で、娘のそのような気持を受け容《い》れない。当然若い二人は、相携えて甘い夢を追い求める……けれども、やがて彼女の身に愛の実の稔《みの》るころには、おとこの心は船に乗って、遠い国へ旅立つ……そしてひとすじの心を偽られた彼女は、堪え難い憎しみを抱いて、故郷へ帰る……けれども父親の冷たいもてなしは、彼女の心を狂おしいまでに掻《か》き立て、そして夜ごと日ごとに沖合をとおる夢のような船の姿は、彼女の心に憎しみの極印を焼きつける。おとこへの憎しみは船乗りへの憎しみとなり、船乗りへの憎しみは船への憎しみとなり、船という船を沈めつくさんとしてか、とうとうきびしい掟《おきて》を犯して船乗りの命の綱の灯台へ、ガスの深い夜ごとに、看守の居眠り時を利用して沙汰《さた》限りの悪戯《わるさ》をしかける……けれども、ある夜とうとう看守にみつけられた彼女は、驚きのあまりそばにありあわせた手斧《ておの
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