うから出て来た風間老人へ、
「まだ予備灯の仕度は出来ませんか?」と言った。
「ええ、まだこれから、掃除をしなければなりませんから」
風間老人の声は、なぜか元気がない。
「すみませんが、ちょっとあなたのてのひらを見せて下さい」
と案の定切り出した。これは面白くなって来た、と思ったのも束《つか》の間《ま》、やっぱり風間老人のてのひらにも胼胝《たこ》は出来ていなかったと見えて、やがて老看守は倉庫の中へ入り、東屋氏は、今度は官舎のほうへ出掛けて行った。そしてわたし達の視野から姿を消してしまった。
アンテナ工事はなかなか困難だ。わたしの両手は折れそうに痛くなった。その上ここはひどく寒くて、眩暈《めまい》もする。けれどもやがてその困難な仕事がほとんど出来上ったころに、東屋所長が非常に緊張した顔つきで、飛び込むように帰って来た。
東屋氏は明らかにただならぬ興奮を押えつけているらしく、途切れ途切れに言った。
「……あの細君、自分の亭主の死体が、見られないはずはないって、小使に喰《く》ってかかってたよ……早く見せて上げたほうが、かえっていいと思うが……」
「てのひらはどうでした?」わたしは待ちか
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