の線をなしている事が判った。つまり、二人の人間が、庭下駄を履いてこの間を往復したことになる。すると、外から這入って、外へ帰ったのか? 内から出て内へ帰ったのか? けれどもこのような疑問は、庭下駄と云う前後の区別のハッキリした特殊な足跡が解いて呉れる。そして間もなく母屋の縁先の沓《くつ》脱ぎで、地面に残された跡とピッタリ一致する二足の庭下駄が発見《みつ》けられた。
 秋森家の家族が怪しい。
 警官達は俄然色めき立った。司法主任は、蜂須賀巡査を足跡の監視に残すと、母屋の縁先へ本部を移して、雄太郎君、郵便屋、戸川差配人の三人立会の下に、いよいよ秋森家の家族の調査にとりかかった。
 老主人の秋森|辰造《たつぞう》は、動くことの出来ない病気で訊問に応じ兼ねると申しでた。そしてその病気については差配人や女中の証言が出たので、司法主任は二人の息子を呼び出した。ところが、出て来た二人の男を一目見た瞬間に、雄太郎君と郵便屋は真っ蒼になった。
 二人の息子は、体格と云い容貌と云いまるで瓜二つで、二人とも同じような白い蚊飛白《かがすり》の浴衣を着、同じような黒い錦紗《きんしゃ》の兵児帯を締めている。名前は宏
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