って空気の局部的な密度の変化を作る。するといま僕達の立っている位置から、あのポストの附近へ通ずる光線は、空中で反射し屈折しとてつ[#「とてつ」に傍点]もない彎曲をして、ひょっこり『石塀の奇蹟』が現れたんだ」そして喬介は郵便屋を顎で指して笑いながら、「……ふふ……見給え。規定された距離を無視して近付いた郵便屋さんは、もう双生児《ふたご》ではなくなって、恐らく先生も、いま僕達の体について見たに違いない不思議に対して、あんなに吃驚《びっくり》して立ってるじゃあないか。……兎に角、もう三十分もして、一寸でも石塀の温度が下ったり、この実に珍らしい奇観を作り上げている複雑な条件が一つでも崩れたりすると、もうそれで、あのポストも見えなくなってしまうよ……やれやれ、これでどうやら君の頭痛もなおったらしいね」
[#地付き](〈新青年〉昭和十年七月号)



底本:「とむらい機関車」創元推理文庫、東京創元社
   2001(平成13)年10月26日初版
底本の親本:「死の快走船」ぷろふいる社
   1936(昭和11)年
初出:「新青年」
   1935(昭和10)年7月号
入力:土屋隆
校正:大阪のたね
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