。と不意に喬介が云った。
「見給え、郵便屋の双生児《ふたご》がやって来る!」
 ――全く、見れば霜降りの服を着て、大きな黒い鞄を掛けたグロテスクな郵便屋の双生児《ふたご》がポストの側からだんだんこちらへやって来る! だが、不思議にもその双生児《ふたご》は、三人に近付くに従って双生児《ふたご》からだんだん重なって一人になりはじめた。そして間もなく其処には、あの実直な郵便配達夫が何に驚いたのか眼を瞠《みは》って、じっとこちらを見詰めたまま立停っていた。
「ああ、蜃気楼だな!」不意に雄太郎君が叫んだ。
「うん、当らずと雖《いえど》も遠からずだ」喬介が云った。「つまりひとつの空気反射だね。温度の相違などに依って空気の密度が局部的に変った場合、光線が彎曲《わんきょく》して思いがけない異常な方向に物の像《すがた》を見る事があるね。所謂《いわゆる》ミラージュとか蜃気楼とかって奴さ。そいつの、これは小規模な奴なんだ。……今日は、あの惨劇の日と同じように特に暑い。そしてこの南向の新しい大きな石塀は、向いの空地からの反射熱や、石塀自身の長さ高さその他の細かい条件の綜合によって、ひどく熱せられ、この石塀に沿
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