いるわけだが、それとても荒廃しきった禿山の静けさを覆うには、余りにも陰気な集りに過ぎなかった。
 締め切った窓に蜘蛛の巣が張り、埃の積った畳に青カビの生えたような空室が数を増すにつれて、赤沢医師の気持も隠しきれない焦燥に満たされて来た。いつからか凝り始めた盆栽の手入れをしながら、うっかり植木の新芽を摘みすぎてしまったり、正規の回診時間にひどい狂いが起きたりするうちはまだよかったが、やがて嵩《かさ》んだ苦悩のはけ口が患者に向けられて、「この気狂い野郎!」とか「貴様ア馬鹿だぞ、脳味噌をつめ替えなくっちゃア駄目だ」なぞと無謀な言葉を浴せるようになると、側《そば》に見ていた看護人や女中達は患者よりも院長のほうに不安を覚えて、そっと眼を見交わしては苦い顔をするのだった。けれどもそんな時患者の方は、急に口をつぐんでいつも教えられたように院長の言葉を聞分けようとでもするのか、妙な上眼を使いながらのそりのそりと尻込みするのだった。
 三人の患者は三人とも中年の男で、むろんそれぞれ本名があるのだが、ここでは特別な呼名をつけられていた。即ち「トントン」と云うのは一号室の男で、毎日病室の窓によりかかっては、
前へ 次へ
全30ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大阪 圭吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング