はじめた。揉みはじめたのだがその足裏は、どうしたことかひどく硬くて凹《へこ》まない。どうやら大きな胼胝《たこ》らしい。博士は、今度はもう少し足を持ちあげて、その拇《おや》指の尖端《さき》を灯の前へ捻《ね》じ向けるようにした。灯に向けられたその拇指は、だがなんと、大きく脹《ふく》れあがって、軽石のようにコチコチだ。
 途端に宇吉が、蝋燭を落した。
 不意にあたりが真暗になった。そしてその真ッ暗な闇の中で、泣くとも喚くとも判ちぬ世にも恐ろしげな宇吉の声が、
「……ゥあああ……そ、それァ、『トントン』の足ですゥ!……」
 けれどもその声が止むか止まぬに、もうひとつ別の、松永博士の、鋭い擘《つんざ》くような叫び声が、激しい跫音と共に、闇の中を転ろげるように戸口のほうへつッ走った。
「主任ッ! 直ぐ来て下さいッ!」
 続いて廊下で、激しい跫音が入乱れたかと思うと、なにかが引戸へぶつかって、ジャリンとガラスの砕ける音――
 おッ魂消《たまげ》た司法主任が、夢中で廊下へ飛び出ると、二つの争う人影が、三号室の前で四ツに組んで転《ころが》っている。駈けつけて、戸惑って、だが直ぐ頭の白い繃帯を目標《めじる
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