うしたことか今までとは打って変って、その顔色はひどく蒼褪《あおざ》め、烈しい疑惑と苦悶の色が、顔一パイに漲《みなぎ》っていた。
「待って下さい……」
 やがて博士が呻くように云った。そして苦り切って顔を伏せると、惑《まど》うように暫くチラチラと「トントン」の屍骸を見遣《みや》っていたが、やがて思い切ったように顔を上げると、
「そうだ、やっぱり待って下さい。……貴方はいま、結末、と云われましたね?……いやどうも、私は、飛んでもない思い違いをしたらしい……主任さん。どうやらまだ、結末ではなさそうですよ」
「な、なんですって?」
 とうとう主任は、堪りかねて詰めよった。すると博士は、主任の剣幕にはお構いなく、再びチラッと「トントン」の屍骸を見やりながら、妙なことを云った。
「ところで、赤沢院長の屍体は、まだあの脳病院に置いてありますね?」

          四

 それから二十分程のち、松永博士は殆ど無理遣《むりやり》に司法主任を引張って、赤沢脳病院へやって来た。
 夜の禿山では、雑木の梢が風にざわめき、どこかで頻《しき》りに梟《ふくろ》が鳴いていた。
 博士は、母屋で鳥山宇吉をとらえる
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