が、とうとう火葬場の近くで捕えられた。松永博士の推断通り興奮の鎮まった「歌姫」は西の空が茜色《あかねいろ》に燃えはじめると、火葬場裏の雑木林の隠れ家から例のせつなげなソプラノを唄い出したのだ。それを聞きつけた気の利いた用心深い私服巡査の一人が、近寄ってバチバチと手を拍《たた》いた。すると「歌姫」は瞬間唄い止《や》んで、暫く疑ぐるような沈黙をみせたが、直ぐに安心したように再び悩ましげに唄いはじめた。巡査はもう一度拍手を送った。今度は直ぐにアンコールだ。再び拍手。そしてアンコール。果ては笑声さえ洩れだして、二人の距離はだんだん縮まり、案外わけなく捕えられてしまった。
女の着物を着た「歌姫」が、自動車でステージならぬ警察へ連行されて来ると、司法主任は勇躍して訊問にとりかかった。が、直ぐにその相手が、到底自分の手におえられるようなただの代物でないことに気のついた司法主任は、松永博士のところへ電話を掛けた。
博士は、病院を退《ひ》けてから、見舞いかたがた赤沢脳病院へ出向いていたが、主任の電話を受けると直ぐに来てくれた。そして事情を聞きとると、真先に「歌姫」を捕えた警官の機智を褒め上げた。
「
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