「……判りませんが……どう云うわけで?……」
 主任は六ヶ敷そうに顔を赭《あから》めた。
「なんでもないですよ」と博士はニヤリと笑いながら、「……これは私が、薬屋から聞いたんですが、なんでもあの赤沢さんは、最近ひどく憔悴して、患者を叱る時に『脳味噌をつめ替えろ』と云うような無謀な言葉をよく使われたそうですね」
「それです。それが動機なんです」
「待って下さい。……それで、私の一、二度耳にした限りでは、確か『脳味噌をつめ替えろ』で、『脳味噌をとれ』ではなかったと思います。いいですか、『つめ替えろ』と『とれ』とでは、大分違いますよ」
「……ハァ……」
 主任は判ったような判らぬような、生返事をした。博士は尚も続けた。
「ね。馬鹿は馬鹿なりに、それ相応の理解力があるんですよ。『脳味噌をつめ替えろ』と云われて、利巧な人の脳味噌を抜きとった男が、それから、いったいなにをする[#「なにをする」に傍点]と思います?……」
「……」
 主任は、無言のうちに愕然となって立上った。そして顫える手で帽子を掴むと、思わず松永博士にぴょこんと頭を下げた。
「有難うございました。よく判りました」
 すると博士
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