かけら》でつけたものであろう、顔から頭へかけて物凄い掻傷《かききず》が煮凝《にこごり》のような血を吹き、わけても正視に堪えぬのは、前額から頭蓋へかけてバックリ開いた大穴から、なんと脳味噌が抜きとられて頭の中は空っぽだ。とられた脳味噌はどこへ行ったか、辺りには影も形もない……

          二

 急報を受けたM市の警察署から、司法主任を先頭に一隊の警官達が赤沢脳病院に雪崩《なだ》れ込んだのは、それから二十分もあとのことだった。
 司法主任吉岡警部補は、すっかり上《あが》ってしまった鳥山宇吉から一通りの事情を訊きとると、取りあえず部下の警官を八方に走らして、脱走した三人の狂人の捜索逮捕を命じた。
 間もなく検事局の連中がやって来ると、直ちにテキパキした現場の検証や、予審判事の訊問が始まった。宇吉、赤沢夫人、女中の三人は、気も心も転倒したと見えて、最初のうちしどろもどろな陳述で係官を手古摺《てこず》らしたが、それでも段々落つくに従って、赤沢脳病院の現状からあのいまわしい雰囲気、院長の荒《すさ》んだ日常、そして又三人の狂人の特長性癖等に就いて、曲りなりにも問わるるままに答えて行った。
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