一方警察医の意見によると、院長の死は午前四時頃と推定され、その時刻には家人はまだ睡《ねむ》っていて、物音なぞは聞かなかったこと。院長はいつも早起きで、寝巻のままで体操や散歩をする習慣であったこと等々も判って来た。
 ひと通りの調査が終ると、検事が司法主任へ云った。
「とにかく犯行の動機は明瞭です。問題は、三人の気狂いの共犯か、それとも三人の内の誰かがやって、あとは扉《と》が開いてるを幸いそれぞれバラバラに飛び出してしまったか、の二つです。ところで、犯人の逮捕に、警官は何名向けてありますか?」
「取りあえず五名向かわしました」
「五名?」と検事は顔を顰《しか》めて、「それで、なんとか情報がありましたか?」
「まだです」
「そうでしょう。五名じゃアとても手不足だ。だいたい逃げ出した気狂いは三人でしょう。それも隠れとるかも判らないし……」
 云いながら検事は、ふと恐ろしい事に気がつくと、みるみる顔を硬張らせながら、あとを続けた。
「そうだ、この場合、捕える捕えないどころの問題じゃアないよ。いや、こいつァ大変なことになる……いいかね、犯人は狂人で三人、それもただの気狂いじゃアなく、突然兇暴
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