って乗り出すと、
「では申上げますが、実は皆さん……どうもこれは、私の力だけではお役に立たないことになりました。御主人の死は、御自身の過失によるものではありません。一応警察のほうへ、御電話して戴かねばなりません」
 すると今まで私の執拗な質問に、先程から何故か妙に落着のない不安気な様子を見せていた深谷夫人は、どうしたことか急に眼の前の空間を凝視《みつ》めたまま、声も出さずに小さく顫えだした。
 二人の紳士は、さても面倒なことになったと云う様子で、暫く手を揉み合わせていたが、やがて荒々しく室を出ていった。
 居残った私達三人の間には、妙に気不味《きまず》い沈黙がやって来た。が、まもなく夫人は、なにか意を決したように顔をあげると、訴えるような様子で私達へ云った。
「……こんなことにでもならなければ、と思っていたのですが……実は、あの……昨晩から、主人の様子が、いつもと変っていたのでございます」
「と被仰《おっしゃ》ると?」
 私は思わず訊き返した。
「はい、それが、あの……あれはなんでも、ラジオの演芸が始まる頃でしたから、宵の七時半か八時頃と思いますが、その頃から、なにかあったのか急に主人
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