しい紙片を数枚取り出しながら、
「これは、この戸棚の書類金庫から一寸拝借したものです。頗る略式化した一種の商品受領証と云ったようなものですね。欧文です。で、文中商品の項に青提灯とか、赤提灯とかしてありますが、勿論これは真珠を指し示しているのです。そして、この下の処に、T・W・W――としてあるのが、荷受人のサインです。お判りになりますか? つまり深谷氏は、早川と共謀して、外人相手に真珠の密造並に密売をしていられたんです。そして、この七枚の書類の日附けを、深谷夫人にそれぞれ辿って頂いたならば、きっと御夫人は、その各《おのおの》の日の夜遅く、あの白い柱《マスト》の尖端に黄色い信号燈が挙がっていた事を思い出されるでしょう。そしてまさにその時、この海の暗い沖合遙かに一艘の怪し気な汽船の姿を、皆さんは想像する事が出来るでしょう――」
 東屋氏は一息ついた。
 いつの間にか知らない内に、崩れるような激しい嵐は消え去って、風雨は忘れたように遠去かり、追々に、元の静けさが蘇えって来た。
 やがて東屋氏が、
「最後に、私は、キャプテン深谷氏のあの奇妙な、怯えるような独言に就いて――」
 と、この時である。
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