、犯人の体重と云うことになるんだ」
「成る程、合理的だ」と私は乗り出して、「じゃあもう、この荷物を秤に懸けさえすれば、それでチョンだね?」
「いや君、ところがこの事件は、それでチョンになるような単純なものではないよ。犯人は間もなく判るさ。だがそれは、この事件の大詰めではない。例えば、まずあの『明日の午後だ。明日の午後までだ、きっとここまでやって来る』と云う怯えるような深谷氏の独言を思い出し給え。いったい深谷氏はなにをそんなに待ち恐れていたのだろう?……ここで深谷氏の、奇妙な日常生活も一応考えねばならん。そして又、桁網でこんな貝をこんなに沢山拾い集めてなにをしようと云うのだろう?……ね、いくら深谷氏だって、まさか『これも儂《わし》の趣味じゃ』なんて云えまいて……」
 東屋氏はそう云って、苦々しく紙巻《シガーレット》の吸いさしを海の中へ投げ込んだ。
 真艫《まとも》に強い疾風を受けた白鮫号は、矢のように速く鳥喰崎を迂廻する。陰気な雲は空一面にどんよりと押し詰って、もう太陽の影も見えない。

 それから程なくして深谷邸に帰り着いた私達は、重い荷物を提げて崖道を登って行った。
 私達の留守の間
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