。
私達は昂奮しながら、それでも黙って跡を辿りはじめた。やがて細長い草地が行き詰って、密林に立ち塞がれた前方の、今私達が辿っている奇妙な跡の延長線上に、恰度大きな黒犬が蹲《うずくま》った位の、訳の判らぬ品物が見えて来た。私達は心を躍らしながら、大急ぎで駈け寄った。
が、再び私達を驚かしたことには、その黒い品物と云うのは、貝類採取用の小さな桁網《けたあみ》に、先程深谷邸で白鮫号の浮力の実験をした時に東屋氏が発見したと同じなマベ貝の兄弟達が、ギッシリ詰っていた。網の口は、中味が零《こぼ》れないように縛りつけてある。私達は立ち竦《すく》んでしまった。
「……やっぱり深谷氏の屍体なぞではなくて、こいつだったんだな。だが、いったいこれはどうしたことだろう? こんな貝を、しかもこんなに沢山集めて、何んにしようと云うのだろう? そしてなによりも、何故|先刻《さっき》この木立を逃げて行った人間は、我々にこんなものを見られたくなかったのだろう?……」
東屋氏は、そのまま暫く考え込んでしまった。が、やがて因ったように顔を上げると、急に元気のない調子で、
「……どうも僕は、いままで大変な感違いをしてい
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