か?」
私は東屋氏へ声を掛けた。
「うむ、だがしかし、そうとすると、深谷氏は船中で殺されそのまま船尾《スターン》へロープで縛って海中へ投げ込まれたと云う僕の考えは、一応覆えされることになる……」
東屋氏は考え込みながら草地の処までやって来た。足跡の消された跡は、そこから見えなくなってしまった。昨晩踏みつけられ、又重い物を引きずられた時には、きっと草も敷き倒されたに違いない。が、時間を経ているためにもう、皆んな生々と伸びあがっている。
やがて処々に生い茂った灌木の間を縫うようにして、草地を歩き廻っていた私達は、ひときわ高く密生した木蔭の内側で、小さな池を発見した。そしてその細かい草の敷かれた岸辺には、大型のアセチリン・ランプが一つ転がっていた。そしてもっと私達の注意を惹いたことには、先程海岸の土の上で私達が見たと全く同じな重い物を引きずったような跡が、池の中から出たらしく岸の小石を濡して草地の中へ、しかもいま私達がやって来た海岸の方とは反対に、山の方へ向けて着いていた。重い品物は、ほんの数分間前に池から上げられて引きずられたと見え、草は敷き倒されたままびっしょりと、一面に濡れていた
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