水線は上下します。そしてもしも海上に泡が浮いていたとすれば、幾度か上下した吃水線のうちの最上の線に沿って、その泡は残ります。つまり空の船が水平に浮かされた場合の標準吃水線以上の位置に、貴方の見られた、第二の別な、泡の吃水線が、何にも乗らなくても、ローリングで作られるのです。成る程あの吹き溜りでは、波はなし、岬の陰で風も少い訳ですから、縦揺《ピッチング》などはしないでしょう。が、ローリングは、多少にかかわらず必ずいたします。ですから支那の司馬温公みたいに、池に舟を浮べて象の重さを計るような具合には行きませんぜ。貴方の一九〇|瓩《キロ》説は、少々早計でしたな」
 そう云って黒塚氏は、葉巻《シガー》の吸い差しを銀の灰皿の中へポンと投げこんで、両腕を高く組みあげた。
 成る程|流石《さすが》に専門家だけあって、論説もなかなか行き届いている。私は急に心配になって東屋氏の形勢を窺った。ところが東屋氏は一向に平気で、安心したように緊張を解くと、静かに始めた。
「大変有力なお説です。だがここでひとつ、私の素人臭い反駁をさして貰いましょう。でその前にもう一度申上げて置きますが、あの泡の吃水線は、白鮫号の
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