乗り出した。
「では、海の上に、白鮫号は見えませんでしたか?」
すると黒塚氏は、口元に軽く憫《あわれ》むような笑いを浮べながら、
「なにぶん闇夜で、生憎薄霧さえ出ましたからね……」
そこで東屋氏も笑いながら、
「お風邪を召されませんでしたか?」
とそれから急に真顔になって、「ところで、大変あつかましいお願いで恐縮ですが、貴方と洋吉さんのお二人に、一寸お体を拝借したいんですが?」
「よろしいですとも……だが、なにをなさると被仰《おっしゃ》るんです?」
「あの物置の、秤に懸《かか》って戴きたいです」
「と被仰《おっしゃ》ると……いったい又なんのためにそんな事をなさるんですか?」
「ええその、この事件に就いて、少しく愚案が浮びましたので……」
「はて? 少しも合点がいきませんな……我々の体を天秤へ乗っける――?」
「つまりですな……犯行当時の白鮫号に、人間が合計三人以上、正確に云えば、一九〇|瓩《キロ》強の重量が乗っかっていた、と云う私の推定に対する実験のためにです」
「ど、どうしてそんな事が断定出来たのですか?」
「先程拝見しました白鮫号の白い舷側の吃水線から、一様に五|吋《インチ》
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