しいのは判っていたのだが、それならば私がその折召使に伝言《ことづけ》した忠告も、恐らく家人の注意と同じように聞き捨てられたに違いない。可哀想に、年老いた頑《かたく》なキャプテン深谷氏は、そうして我れと我が命を落すような怪我《あやまち》をしでかしたのではあるまいか。老人がそのような夜更しをするさえ既に危険であるのに、殊にこの辺りの海は夜霧が多く話に聞けば兇悪な大|鱶《ふか》さえも出没すると云う。私は、夫人の慌だしい招きの電話を思い出しながら、きっとこの予感は外れていないように思われるのだった。ともあれ私達は急がねばならない。
 やがて私達は石ころの多い代赭《たいしゃ》色の、美しい岬の坂道にかかった。ちょうど日曜日で久々に訪ねてくれた水産試験所の東屋三郎《あずまやさぶろう》氏は、折角計画した遠乗りのコースをこのような海岸に変更されて最初のうち少からず鬱《ふさ》いでいたのだが、けれども途々キャプテン深谷氏に関する私の貧弱な説明を聞き、いま又こうして奇妙な岬の深谷邸を眺めるに及んで、はやくも心中にいつもの好奇の病が首を起したのか、いまはもう私の先に立って進みはじめた。
 私達の乗った馬は、倶楽
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