なく私達は物置の中へはいって、銘々《めいめい》に秤へ懸りはじめた。
 先ず東屋氏が五六・一二〇|瓩《キロ》、次に私が五五・〇〇〇|瓩《キロ》、下男の早川が六五・二〇〇|瓩《キロ》。二つの石は合せて一四・六〇〇|瓩《キロ》。そして合計一九〇・九二〇|瓩《キロ》。――
 東屋氏は、以上の数字をノートへ記入しながら、
「合計一九〇・九二〇|瓩《キロ》と、さあよし。つまりこれが、昨夜の白鮫号に加えられた、最高の重量と云うわけだ。……じゃあここらで、昼食にありつくとしようか」
 そこで私達は物置の外に出た。けれども東屋氏は、物置の直ぐ右隣のスマートな船室《ケビン》風の室《へや》を見ると、思いついたように早川へ云った。
「これが、キャプテンの書斎ですね?」
「ええそうです。船室《ケビン》、船室《ケビン》と呼んでいる特別の室でございます。やはりキャプテンの御趣味に従って七、八年前に建てられたものでして、お許しがなくては誰でも這入れないことになっております」
「成る程、じゃあもう、永久に這入れないわけですね」
 東屋氏は皮肉を云いながら歩き出した。

「ローンジを兼《かね》た美しい主館《おもや》の食堂では、窓に近い明るい場所にテーブルを構えて、深谷夫人と黒塚、洋吉の三人が、悲嘆のうちにも、もう和やかな食事を始めていた。そこで私達も席について気不味さを避けるように窓の外の美しい景色を眺めながら、人々の仲間に加わった。
 ここから見ると、海の姿は一段と素晴らしい。遠く左の方には薄紫色の犬崎が、私達の通って来た海岸へ続くのであろう、この大きな内海を抱きこむようにして、漂渺たる汀《みぎわ》を長々と横えている。向って右側には、油を流したような静かな内湾地帯だ。幾つもの小さな岬が重なり合った手前には、ひときわ目立って斑《まだら》な禿山のある美しい岬が、奇妙に身を曲《く》ねらして海の中へ飛出している。凡て右側の湾の多い陸地は、深い山が櫛の歯のように海に迫り、蜘蛛の子を散らしたような磯馴松《いそなれまつ》が一面に生い茂っている。この邸以外には人家らしいものとてなく、見渡す限り渺茫たる海と山との接触だ。青い、ぼかし絵のようなその海を背にして、深谷氏の船室《ケビン》が白々と輝き、風が出たのか白い柱《マスト》の上空を、足の速い片雲が夥しく東の空へ飛び去っていた。
 やがて食事が済むと、紅茶のカップを持っ
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