に受けて影になって浮上るではないか。どうしてお前はそれが峯吉だったと見ることが出来たのだ?」
「……」
お品は訳の分らぬ顔をして、俯向いてしまった。が、その顔には隠し切れぬ不安が漲《みなぎ》っていた。技師は係長へ向き直った。
「もう、私の考えていることが、いや、こうよりほかに考えざるを得ないことが、大体お判りになったでしょう……つまり、峯吉は、あの発火の時に、てん[#「てん」に傍点]から坑内には入っていなかったのですよ」
「待ち給え」係長が遮切った。「すると君は、この女が闇の中で抱きついた男と云うのは、峯吉ではなかったと云うんだな?」
「そうです。峯吉は外にも中にもいなかったのですから、いやでもそう云うことになるではありませんか」
「じゃア、いったいその男は誰なんだ」
「女のあとから飛び出して、しかも坑内には残されなかったのですから、その時女のうしろ[#「うしろ」に傍点]にいて、防火扉のまえ[#「まえ」に傍点]にいた男です」
係長は、意外な結論に驚いて黙ってしまった。が、直ぐに勢いを盛り返して、
「どうも君の云うことに従うと、事件全体がわけの判らぬ変チクリンなものになってしまうぜ。
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