例えば、峯吉は発火の時にその場にいなかったとすると、いったい何処へ行っていたんだ」
「さア、それですよ」と技師はひと息して、「ここでもう一つの他の事実を、そこまで進んだ新らしい目で見ます。……つまり、水呑場にあった安全燈《ランプ》ですが、あなたは、その安全燈《ランプ》を、密閉後抜け出した峯吉が、人殺しの邪魔になるから置いて行ったと解釈されたでしょう。しかしいま私は、その安全燈《ランプ》を、発火当時坑内にいなかった峯吉の所在を示すものと解釈します。峯吉は、水呑場へ行っていたんです」
「成る程。じゃアなんだな。峯吉は全々発火に関係していなかった。つまり決して塗込めに関係していなかったんだな。それでは、何故その塗込められもしない峯吉が、塗込めに関係した恨みもない人々を次々に殺害したのだ」
「どうもあなたは、まだ誤った先入主にとらわれていますね」
菊池技師は苦笑すると、両手を握り合して苛立たしそうに歩き廻りながら云った。
「私がいままで考え進めて来た範囲では、まだ犯人が誰であるかと云う点には、少しも触れていなかった筈ですよ。ところで、ここでもう一つほかの事実を調べて見ましょう。それはこの殺人
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