って来ると、片盤から自分の採炭場《キリハ》へはいって行き、そこの闇の坑道でいつもそこまで迎に出ている峯吉に飛びついて行ったと云うが、その男は確かに峯吉であったか?」
 お品は、意外な技師の言葉に、瞬間息を呑んで目を瞠った。
「お前は、峯吉がいつもそこの闇の中で、抱いてくれると云ったろう。闇の中でそうしてその時お前を抱いた男は、確かに峯吉に相違なかったか?」
「……はい……」
「それではもうひとつ聞くが、その時峯吉は安全燈《ランプ》を持っていたか?」
「持ってはいませんでした」
「お前の安全燈《ランプ》はどうしていた?」
「炭車《トロ》の尻につけていました」
「するとその安全燈《ランプ》の光りは、枠に遮切られて前のほうを照らさずに、炭車《トロ》の尻の地面ばかりを照らしていたわけだな……お前は、走っている炭車《トロ》をそのまま投げ出して峯吉へ飛びついたと云ったが、それではその峯吉の前へ炭車《トロ》が行くまで、安全燈《ランプ》の光りは峯吉の顔を照らさなかったわけだし、峯吉の前を炭車《トロ》が走り去って炭車《トロ》の尻につけた安全燈《ランプ》の光りが始めて峯吉に当った時には、峯吉の体は光りを背
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