川監督が、防火扉を締めかけていた。そして締めてしまった。続いて技師が来、工手が駈けつけて、塗込めがはじまる……ここが肝心なところですよ。いいですか、峯吉は防火扉の締められる前に出ていなければならないのですから、その時女のあと[#「あと」に傍点]から飛び出して来て、そして浅川監督が防火扉を締めるまえ[#「まえ」に傍点]に飛び出したことになるのです。つまり飛び出してホッとして振返った女と、防火扉を締めかけた浅川監督との間のなにもなかった空間に、峯吉がいたわけです……」
「待て待て、君の云うことは、どうも判るようで、判らん」
係長が、顔を顰《しか》めながら遮切るようにして云った。技師は構わず続けた。
「いや、判らないのも無理はないですよ。私だって、こうして理詰めで攻め上げたればこそ、やっと少しずつ判りかけて来たのですから……全く、その時そこで、なんとも変テコなことが起ったんですよ。運命の悪戯《いたずら》とでも云う奴なんです」
云いかけて、技師は、傍らに立っていたお品のほうへ向き直った。
「お前にもうひとつ聞きたいことがあるんだ……お前は、あの時|炭車《トロ》を押して捲立《まきたて》から帰
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