係長が苦り切って云った。技師は続けた。
「手ッ取り早く云いましょう。私はあの発火坑で、坑夫の骨さえ見当らなかった時に、その時から新しく考えはじめたんです。――まず坑内には骨さえないのですから、峯吉はどこからか外へ出たに違いない。ところが、いちいち探すまでもなく、防火扉を締めたら間もなく鎮火したと云うのですから、これは消甕《けしがめ》みたいなもので、防火扉のところよりほかにあの坑内には絶対抜け穴はない。それでは峯吉は防火扉のところから出たに違いない。ところが、防火扉の閂は外側にあるし、隙間に塗込めた粘土は塗られたままに乾燥していて開けられた跡はなかった。つまり防火扉は締められてから私達がさっき開けた時までには絶対に開放されていないことになります。すると峯吉は、どうです、そもそも防火扉の締められる前に抜け出ていた、ということになるではありませんか……ところで、ここまで進んだ新らしい目で、ほかの事実を調べてみます。――この可哀相な女は、あの時、男の跫音《あしおと》を後ろに聞きながら発火坑を飛び出したのでしたね。そして飛び出してホッとなって後ろを振返った時には、もう爆音を聞いて駈けつけた浅
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