体よりも、正しいらしい。――係長。どうもあなたは、この事件に就いて全体に大きな勘違いをしてるらしいですよ。あなたは事件の表面に表われた幾つかの事実と、それらの事実の合成による或るひとつのもっともらしい形にとらわれ過ぎて、論理を無視しています。――一人の坑夫が塗り込められ、その塗込めに従事した人びとが次々に殺害される。ところが嫌疑を掛けた坑夫の遺族の中には犯人はいない。そしてその代り塗込められて死んだ筈の坑夫の安全燈《ランプ》が、発火坑以外の或る箇所で発見され、発火坑を調べてみるとその坑夫の屍体はおろか骨さえない――とこれだけの事実の組合せから、あなたはその塗込められた坑夫自身が何等かの方法で生き返って坑外へ抜け出し、自分を塗込めた男達へ復讐しはじめた、と云う至極もっともらしい疑惑を抱いたわけでしょう。しかしそのもっともらしさは論理ではなくて、事実への単なる解釈であるに過ぎませんよ。その解釈が如何にもっともらしい暗示に富んでいても、そのために、絶対に抜け出ることの出来ない坑内から抜け出した、と云う飛んでもない矛盾をそのまま受け入れてしまうことは出来ません」
「それで君は、どう考えたんだ」
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