がらも早くも四壁に燃えうつった焔を採炭場《キリハ》の奥に覚えると、夢中で向き直って片盤口へ馳け出したが、直ぐに「峯吉は」と気づいて振返ると男も真赤な焔を背にして影のようにあとから馳け出して来る。炭塊に燃移った焔は、捲き起された炭塵の群に次々に引火して火勢はみるみる急となった。お品は背後に続く男の乱れた跫音《あしおと》と、目の前の地上に明々《あかあか》と照らし出された二人の影法師に僅かな安堵を覚えながらそれでも夢中で駈けつづけた。レールの枕木にでもつまずいてか突然後ろの影がぶッ倒れた。眼の前に片盤坑の電気が見えた。
しかしお品がその電気の下に転げ出た時、ここで最初の悲劇が持上った。片盤坑に抜け出たお品がそこの複雑なレールのポイントにつまずいて思わず投げ出されながら後ろを振返った時に、早くも爆音を聞いて駈けつけた監督が、いまお品の転げ出たばかりの採炭坑の入口で、そこにしつらえられた頑丈な鉄の防火扉をみるみる締めはじめた。一足違いで密閉を免れたお品は、ホッとして無意識であたりを見廻わしたが、この時はじめて恐ろしい事態が呑みこめた。大事な男が、峯吉がまだ出ていない。お品は矢のように起上ると防
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