の炭坑とも同じようにやはりウォルフ安全燈であった。ウォルフ安全燈というのは、みだりに裸火にされる危険を避けるために、竪坑の入口の見張所の番人の持っている磁石《マグネット》に依らなければ、開閉することの出来ない装置になっていた。けれども、取扱いに注意を欠いて斜に置いたり、破損するようなことがあっては安全を期することは出来ない。
 悪い時には仕方のないもので、お品の安全燈《ランプ》は炭車《トロ》の尻にブラ下げてあり、そして空の炭車《トロ》はそのまま走っていたのであるから炭車《トロ》の尻には複雑な気流が起り、いままで地面に沈積していた微細な可燃性の炭塵は、当然烈しく捲き立てられていたのであった。全くそれはふとしたことであったがその瞬間に凡ての悪い条件は整ってしまい、いままで二人の幸福の象徴でもあった安全燈は、ここで突然予期しない大事を惹き起してしまったのだ。
 瞬間、女は眼の前で百のマグネシウムが焚かれたと思った。音よりも先に激しい気圧が耳を、顔を、体をハタッと撃って、なにか無数の泥飛礫《どろつぶて》みたいなものがバラバラッと顔中に打当るのをボンヤリ意識しながら、思わずよろめいた。よろめきな
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