飛び退くようにして、立ちはだかった男の腕の中へ、お品は炭車《トロ》の尻を蹴るようにして水々しいからだを投げかけて行った。投げかけて抱かれながら、お品は夢見心地で、闇の中を独りで遠去かって行く空の炭車《トロ》を、その枠の尻にブラ下げた仄暗い、揺れ続ける安全燈《ランプ》を見たのであった。
全くそれは夢見心地であった。あとになってその時のことは何度も調べられたし、又女自身でも何度も考えたことであるが、その時の有様はハッキリ頭の中へ焼きつけられていながら、尚|且《かつ》それは夢の中の記憶のようにそらぞらしい出来事であった。
お品の安全燈《ランプ》は、その時闇の中に抱き合った二人を残して、わずかに炭車《トロ》の裾を淡く照らしながら遠慮でもするかのように揺れながら遠退いていったのであるが、みるみる奥の採炭場《キリハ》の近くまで遠退いていったその炭車《トロ》は、そこのレールの上に鶴嘴でも転っていてかチャリーンと鋭い音を立ててひときわ激しく揺れはじめ、揺れはじめたかと思うとアッという間に安全燈《ランプ》は釘を外れてレールの上へ転落して行った。
滝口坑で坑夫達に配給していた安全燈《ランプ》は、どこ
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