ね上げて、力まかせに鉄扉を引き開いた。異様な生温い風が闇の中から流れて来た。二人は薄暗い安全燈《ランプ》の光を差出すようにしながら、開放された発火坑に最初の足跡をしるして踏み込んだ。踏み込んですぐその場から安全燈《ランプ》を地上へ差しつけるようにしながら、峯吉の骨を探しはじめた。が、みるみる二人は、なんともかとも云いようのない恐怖に叩ッ込まれて行った。
峯吉の骨がない!
いくら探してもない。墨をかけられた古綿のように、焼け爛れた両側の炭壁は不規則な退却をして、鳥居形に組み支えられていた坑木は、醜く焼け朽ち、地面の上に、炭壁からにじみ出たコールタールまがいの瓦斯《ガス》液が、処々異臭を発して溜っているだけで、歩けども進めども、峯吉の骨はおろか、白い骨粉ひとつさえない。二人はまるでものに憑かれたように、坑道の中をうろたえはじめた。が、やがて曲ったり脹《ふく》れ浮いたりしていたレールが、急に飴《あめ》のようにひねくれ曲って、焼け残った鶴嘴や炭車《トロ》の車輪がはねとばされ、空気がまだ不気味な火照《ほてり》を保っている発火の中心、つまりその採炭場《キリハ》の終点まで来てもそれらしい影がみつ
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