の兇器が叩き落されたのだ。
係長は、思わず監督のドスを拾いあげて、辺りを見廻しながら、技師と力を合せて屍体の上の炭塊を取り除けた。屍体は首も胸もクシャクシャに引歪められて、二タ目と見る事も出来ないむごたらしさだった。
ホンの一足遅くれたために、貴重な囮は、殺人者の姿をさえも見ることも出来ずに逆に奪われてしまった。予期しなかった危険とは云え、これは余りに大き過ぎる過失であった。二人は烈しい自責に襲われながらも、しかしこの出来事の指し示す心憎きまでに明白な暗示に思わずも心を惹かれて行くのであった。復讐は為し遂げられたのだ。しかも武器も持たずにこのように着々と大事を為し遂げて行く男は、いったい何者であろうか。犯人はこの片盤内にいるただの坑夫か、それとも――係長は、発火坑の鉄扉の上へ視線を投げた。鉄扉の前へ近づいた。手を当てた。が、なんとそれはもうすっかり冷め切っていた。菊池技師は排気管を調査した。が、瓦斯《ガス》ももう殆んど危険のないまでに稀《うす》められていた。二人は舌打ちしながら力を合せて、鉄扉の隙の乾いた粘土を掻き落しはじめた。
間もなく粘土がすっかり剥ぎ取られると、技師は閂を跳
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