運搬夫《あとむき》たちへ因果を含めながら、片盤坑を奥へと進んで行った係長と菊池技師は、しかしとうとう密閉された峯吉の採炭場《キリハ》の入口の近くで、全く予期しない出来事にぶつかってしまった。
 囮《おとり》になった浅川監督は、人一倍優れた膂力《りょりょく》を持っていたし、その上武器も持っていれば、張り切った警戒力も備えていた筈であった。おまけに相手は武器も持たずに隠れているのだ。それで危険はない筈であったのであるが、しかしそれにもかかわらず、係長と技師が目的場所に着いた時には、もう監督は路面の上で全くこと[#「こと」に傍点]切れていたのであった。
 仰向きになって大の字なりに倒れた屍体の上には、殆んど上半身を覆うようにして、前より一層大きな、飛石ほどもあろうと思われる平たい炭塊がのしかかっていた。その炭塊は他所《よそ》から運ばれたものではないと見えて、すぐ傍らの炭壁の不規則な凹凸面には、いかにも落盤のように、炭塊を叩き落したらしい新らしい切口があり、路面には大小様々の炭塊が、屍体を取り巻くようにしてバラバラと崩落ちていた。殴り倒された浅川監督の瀕死体の上へ、残忍な殺人者の手によって最後
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