からないと、いよいよ事態の容易ならざるに気づいたもののようにそのままその場に立竦んでしまった。
最悪の場合がとうとうやって来たのだ。先にも云ったように、採炭坑は謂わば炭層の中に横にクリあけられた井戸のようなもので、鉄扉を締められた入口のほかには蟻一匹這い出る穴さえないのであった。その坑内に密閉されて火焔に包まれてしまった筈の峯吉の屍体が、屍体はともかく、骨さえも消えてしまうなぞということは絶対にない筈である。ところが、そのない筈の奇蹟がここに湧き起った。係長は、己れのふとした疑惑が遂に恐るべき実を結んだのをハッキリ意識しながら、思わず固くなるのであった。――
恰度、この時のことである。
不意に、全く不意に、あたりの静かな空気を破って、すぐ頭の上のほうから、遠く、或は近く、傍らの炭壁をゆるがすようにして、
……ズシリ……
……ズシリ……
名状し難い異様な物音が聞えて来たのだ。
瞬間、二人は息を呑んで聞耳を立てた。が唸るとも響くともつかぬその物音は、すぐにやんで、あとは又元の静けさに返って行った。
しかし、永い間炭坑に暮した人びとには、その物音が何であるか、すぐに判る筈であ
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