ていた。それは坑道が、電気が処々についているとは云っても、炭塵にまみれた暗い電気であったからでもあり、また坑道は炭車《トロ》の通行に必要な程度にしか設計されていず、なにかと手狭で、そうした支障のために少しでも出炭率の低下するのを恐れたからでもあった。
医員の仕度が出来て救護室へ下って来た知らせを受けると、係長は、とりあえず二つの屍体を救護室に移すことにして、来合せた炭車《トロ》へアンペラを敷いて屍体を積み込んだ。そして自分も監督や巡査と一緒に後の一台へ乗ろうとした時であった。
一人の若い坑夫が、己れの安全燈《ランプ》のほかに火の消えた安全燈《ランプ》を一つ持って、片盤坑の奥から駈け出して来た。坑夫は係長を見ると、立止って固くなりながら云った。
「水呑場で、安全燈《ランプ》を一つ拾いました」
「なに、安全燈《ランプ》を拾った?」
係長は険しい顔で振り返った。
炭坑では、安全燈《ランプ》は、坑夫の肌身を離すことの出来ない生命であった。それはただ暗い足元を照すと云うばかりではなく、その焔の変化によって爆発|瓦斯《ガス》の有無を調べる最も貴重な道具でもあった。しかし先にも述べたように扱
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