は、鉄扉のような思索の闇にぶつかった。
最初係長は、技師の殺害に当って、早くも事の真相を呑み込むと、峯吉の復讐者となり得る人びとの全部を捕えて片ッ端から調査にとりかかったのであるが、しかしその四人の嫌疑者の調査の進行の途中に於て、技師と同じ意味で古井工手が殺害されてしまったのだ。しかも四人の嫌疑者達は、工手の殺害が行われる間中確実に事務所へとじこめられて、一歩も外へは出ていない。それでは犯人は、その四人以外の他人の中にあるか? しかしいまどきの魯鈍な坑夫の中に、他人のために怨みを継いで会社の男を次々に殺していくような、芝居染みた気狂いはいる筈がない。
係長は、いままで鼻の先であしらっていたこの事が、意外な難関に行き当ってしまうと、もうまるで糸の切れた凧《たこ》のようにアテもなくうろたえてしまった。
ところが、ここで係長の暗中模索に、やがてひとつの光が与えられた。けれどもその光たるや、なんともえたい[#「えたい」に傍点]の知れぬ燐のような光で、却って係長を青白い恐怖の底に叩き落してしまうのだった。
滝口坑では、いつでも死傷者に対して炭坑独特の荒っぽい検屍を、救護室で行うことになっ
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