「成る程」と巡査が口を挟んだ。「それで、起きれるようになってから、何処へ行ったかは判らんですね」
 と係長へ向直って、
「こいつは臭いですよ。なんしろ私は、片盤坑の入口で、気の狂った女房と一緒にうろうろしてるのを捕えて、ここへ連れて来たんですからね。救護室を出てから、いままで何処でなにをしていたか……」
「いや、あんたは勘違いしとるよ」
 いままで黙っていた係長が、不意にいった。
「成る程。歩けるようになってから、捕えられるまで、どこにいたかは判らん。が、しかし……」と小頭の方へ向って、
「君がアンペラを取りに行く頃までは起《た》てなかったんだね。それで、君はそのアンペラを丸山技師の屍体へかぶせるつもりで取りに行ったんだろう?」
「そうです」
 すると係長は巡査へ向直って、
「丸山技師は、この男がまだ救護室で腰の抜けている最中に殺されたんですよ。この男が発火坑の前で腰が抜けて、救護室へ連れ込まれる。それから後で技師が殺され、小頭が屍体へかぶせるアンペラを取りに行った。その時始めてこの男が救護室で起《た》てるようになっていた。つまり丸山技師が殺された時には、この男はまだ腰が抜けて看護夫の
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