厄介になってたんです。腰が抜けていたんでは、片盤坑まで出掛けて人殺しなど出来っこない。判りますね。さアもう、これで犯人は判ったでしょう。あの気狂い婆をフン縛って下さい」
 請願巡査はギクンとなって立ちあがると、バタバタと隣室へ駈けこんで行って、岩太郎やお品の見ている前で、有無を云わさず峯吉の母を縛りあげようとした。
 ところが、この時、ここで全く異様なことが持上った。それは、いままで自信を以って推し進められた係長の推断を、根底から覆してしまうような出来事であった。
 断って置くが、殺された丸山技師は平素から仕事に対して非常に厳格であった。それでそのために坑夫達からは恐れられ、幹部連中からは敬遠されがちであった。が、しかし殺されるなぞと云うような変に個人的な、切羽詰った恨みを受けるような人では決してなかった。今度の坑夫塗込事件だけが、始めてそうした恨みを受けそうな唯一の場合であった。そこで係長は、峯吉の塗込めに関して丸山技師を恨んでいそうな人間を全部捕えて、片っ端から調べた揚句、やっといま目的が達せられるかに見えて来ているのであった。しかも工手や監督と一緒に峯吉の塗込めをした丸山技師に対
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