ねる方に無理があった。お品はあの時、恐怖の余り顛倒して岩太郎に抱えられた筈であるから、それから岩太郎と共に真ッ直ぐに納屋へ連れ帰されたかどうか、女自身にも覚えのない筈であった。しかし係長にして見れば、この場合お品も岩太郎も、共に怪しまないわけにはいかなかった。そこで係長は重ねて追求しようとした。
 が、この時事務所の扉があいて、さっきの小頭が見張所の番人を連れて戻って来た。
 カラーのダブついた詰襟の服を着て、ゴマ塩頭の番人は、扉口でジロッと岩太郎とお品を見較べると、係長の前へ来て云った。
「この二人でございますね? ハイ、確かに、十時二十分頃から十時半までの間に、ケージから坑外《そと》へ出て行きました」
「なに、十時半より前に出て行った?」
「ハイ、それはもう確かで、そんな時分に坑夫で坑外《そと》に出たのは、この二人だけでござんすから、よく覚えとります」
「そうか。では、それから今しがたここへ連れ込まれるまでに、一度も坑内へ降りはしなかったな?」
「ハイ、それは間違いございません。ほかの番人も、よく知っとります」
「そうか。よし」
 番人が帰って行くと、係長は巡査と顔を見合せた。
 
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