など卵のようにひしゃいでしまう。その事を知っていた人びとはこの場合、炭塊一つが充分な兇器になり得ることに不審を抱かなかった。係長は持上げた兇器を直ぐに投げ出して、監督のほうへ蒼い顔を見せた。
いままで固くなって立っていた工手が、始めて口を切った。
「あれからひときりついて、浅川《あさかわ》さんが見巡りに出られますと、私は器具置場までコテを置きに行きましたが、その間にこんなことになったんです」
浅川と云うのは監督の名前であった。工手は古井《ふるい》と呼んだ。二人とも発火直後のまだ興奮のさめきらぬうちに、このような事件にぶつかったためかひどくうろたえて落着を失ってた。しかし落着を失ったのは、二人ばかりではなかった。平常から太ッ腹で通した係長自身が、内心少なからず周章《あわ》ててしまった。
発火坑は一坑にとどまった。とは云えその問題の一坑の損害の程度もまだ判りもしないうちに、貴重な技師が何者にとも知れず殺害されてしまった。切った張ったの炭坑で永い間飯を食って来た係長は、人が殺された、と云うよりも技師が殺されたという意味で、恐らく誰よりも先に周章《あわ》てていたのに違いない。
しかしや
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