がて係長には、厳しい決断の色が見えて来た。
「いったい、誰が殺《や》ったんでしょう。こちらで目星はつきませんかな?」
 請願巡査が呑気なことを云うと、
「目星? そんなものならもうついています」
 と係長は向直って、苛々しながら云った。
「この発火事件ですよ……一人の坑夫が、逃げ遅くれてこの発火坑へとじこめられたんです。気の毒ですが、むろん助けるわけにはいきません。ところが、その塗込作業に率先して働いたのが丸山技師です。その丸山技師がこの通り殺されたと云うんですから、目星もつくわけでしょう。いやハッキリ目星がつかなくたって、大体嫌疑の範囲が限定されて来る」
「そうだ。それに違いない」
 監督が乗り出して云った。
 会社直属の特務機関であり、最も忠実な利潤の走狗である監督は、表面現場の親玉である係長の次について働いてはいるが、しかしその点、技師上りの係長にも劣らぬ陰然たる勢力を持っているのであった。巡査は大きく頷いた。監督は続けた。
「それに、アカの他人でいまどきこんなおせっかい[#「おせっかい」に傍点]をする奴はないんだから……峯吉と云ったな? この採炭場《キリハ》の坑夫は」
 事務員
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