って動きつづけていった。しかし事務所の中では、係長がひどく不機嫌に当り散らした。
発火後のごてごてした二十分間に、何台の炭車《トロ》が片盤坑に停まり、何人の坑夫が鶴嘴を手から放したか、係長は真ッ先にそれを計算した。続いて発火坑の内部で、何|噸《トン》の石炭が焼失してしまったか、しかしこれは未知数だ。現場の検査にまたない限り、恐らく概算も掴めない。そこで事務員の一人が鎮火状態を調べに向かわされた。ところで次に、この損害の直接の責任が誰の上にかかって行くか、発火の原因を調べなければならない。係長はもう一人の事務員に、助かった女を連れて来るよう命ずると、それから向直って、まるで鉱山局の監督官みたいに、勿体ぶって傍らに立っていた請願巡査へ、始めて口を切った。
「いやなに、大した事でもないんですよ」
全く一人の坑夫が塗込められた位のことは、或は大した事でなかったかも知れない。しかし大した事は、この時になって始めて持上った。それは鎮火状態を問合せに行った先程の事務員が、間もなく戻って来て、丸山《まるやま》と呼ぶその技師が、何者かに殺害されたことを報告したのであった。
二
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